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鹿児島はどうやって日本茶の生産量を拡大したのか?—歴史・地の利・経営革新から読み解く

2025-09-07日本茶鹿児島茶生産量品種戦略スマート農業6次産業化

鹿児島はどうやって日本茶の生産量を拡大したのか?

導入

長らく日本茶=静岡という図式が一般的でしたが、近年は鹿児島が生産量で日本一に。そこには「歴史・地の利・技術・経営」の掛け算があります。本稿では、鹿児島がどのように生産量を着実に積み上げ、日本一へと到達したのかを、できるだけ具体的に整理します。


1. 歴史の延長線上にある“量の設計”

  • 藩政期〜戦後:薩摩藩の奨励に始まり、戦後は国の産地再編と大規模茶園造成で“面積×機械化”の基盤を整備。
  • “新興大産地”の利点:山間に細分化した小区画が少なく、平坦地の**団地化(ブロック化)**が早くから可能=後の機械化・省力化を前提に設計された産地。

2. 地理・気候による“早場”と安定性

  • 温暖・少霜:霜害が相対的に少なく、安定した越冬。
  • シラス台地:排水性・日照に恵まれ、根圏環境を管理しやすい。
  • 早場の優位:全国でも早い新茶期(4月上中旬)が実現し、市況が堅調なタイミングで先行出荷できる=ロスを抑え回転率を上げる。

3. 品種・作型の最適化(“適地適品種”の徹底)

  • 早生・多収×温暖地適合:「ゆたかみどり」「さえみどり」「あさつゆ」などを面的に導入し、収量と品質のバランスを最適化。
  • 作型の多様化:露地煎茶に加え、かぶせ茶・てん茶の比率を引き上げ、需給変動に強い“複線化”を実現。
  • 多段摘採・年次更新:樹齢・うね更新を計画的に進め、平均収量の底上げを継続。

4. 経営・加工・流通の“産地一体運用”

  • 大規模経営体の形成:農業法人・集落営農が共同で資機材・機械をシェア、平準化されたオペで稼働率を最大化。
  • 荒茶工場の共同化・高度化:大型ラインでロットの均質化ランニングコスト低減
  • JA・連合会の需給マネジメント:集荷・ブレンド・出荷調整で品質と量の安定供給を両立。飲料向け・業務用の大口需要も逃さない。

5. ペットボトル市場への適応と“価格×量”の最適解

  • 飲料市場の拡大期(1990年代〜2010年代)に、低コスト・安定大ロットという産地特性を合致させ、加工原料供給拠点としてポジションを確立。
  • 値頃感の維持:単価を追いすぎず、総量×回転率で収益を作る発想が浸透。

6. スマート農業とオペレーション革新

  • 自動摘採機・乗用型管理機:平坦・大区画ゆえに導入効果が最大化。
  • ドローン散布・センサー:病害虫・栄養状態を可視化し精密投入
  • データ連携:圃場→工場→出荷のデータをつなぎ、品質バラツキの縮小と歩留まり向上。
  • ヒトの最適配置:繁忙期の外部人材受け入れ、技能の標準化で労働生産性を常時改善

7. 県・国の支援とインフラ

  • 産地ビジョンと補助:茶園造成・機械更新・共同施設の整備を後押し。
  • 物流ハブ:鹿児島空港・港湾の活用で国内外への出荷導線を確保。
  • 認証・トレーサビリティ:有機JAS、HACCP的管理の導入でバイヤー対応を強化。

8. リスク分散と持続性への配慮

  • 台風・高温対策:防風ネット・かぶせ資材・かん水設備で気候リスクに備える
  • 品種・作型のポートフォリオ:市場変動に応じた配分切り替え
  • 省エネ・再エネ:製茶工程のエネルギー負担を下げ、コストと環境の両立へ。

9. 成果とこれから

  • 成果:面積・機械化・品種・加工・流通を面でつなぐことで、安定的に「量」を作れる設計を実現。結果として生産量トップへ。
  • 課題:国内需要の長期減少、単価下落圧力、人材確保。
  • 次の一手
    • 高付加価値(シングルオリジン、かぶせ・てん茶、抹茶原料、有機)
    • 海外BtoB(飲料・菓子原料)×BtoC(直販・体験)
    • 脱炭素×データ連携で“選ばれる産地”へ。

まとめ

鹿児島の拡大量は、偶然の積み上げではありません。「平坦な大区画×機械化」「早場×品種最適化」「共同加工×需給マネジメント」「スマート農業×人材オペ」という設計の勝利です。
次回は、**品種別の狙いと作型(ゆたかみどり・さえみどり・あさつゆ 等)**を掘り下げ、味・香り・収量・コストのトレードオフを具体的に解説します。