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日本茶と抽出時間 ― 味わいの変化とコントロール

2025-09-13日本茶淹れ方抽出時間味わいテイスティング

はじめに

同じ茶葉・同じ温度でも、
抽出時間が少し違うだけで味は大きく変わる――。

それが日本茶の面白さであり、奥深さです。

短すぎれば薄く、長すぎれば渋く苦い。
しかし「適正」にハマると、驚くほど整った一杯になります。

本記事では、抽出時間が成分と味に与える影響を整理し、
狙い通りの味に近づける具体的なコントロール方法を紹介します。


1. 抽出時間で何が変わるのか

抽出時間は、温度・茶葉量・湯量と並ぶ基本要素。
とくに以下の成分の“立ち上がり速度”を左右します。

  • テアニン(旨味・甘味)
    → 低温でも比較的早く出る。初期から優位に立つ。

  • カテキン(渋味・苦味)
    → 温度が高いほど早く、時間とともに増える。中盤以降で存在感。

  • 香気成分
    → 立ち上がりが速い揮発性成分と、時間でにじみ出る成分が混在。
    初期の“立ち香”と、後半の“戻り香”を区別して感じると理解が深まる。

要するに、序盤は旨味・甘味、後半は渋味・苦味が強まりやすい
だからこそ「時間操作」で味の重心を動かせます。


2. 茶種別・基本の抽出時間目安

時間は“起点”であり“正解”ではありません。
まず基準を知り、そこから好みに合わせて振るのがコツです。

煎茶(一般)

  • 70〜80℃ / 60〜90秒
  • 60秒:軽やか。甘渋のバランスは軽め。
  • 90秒:コクが出るが、渋みもやや前に出る。

高級煎茶 / 旨味重視のシングルオリジン

  • 65〜75℃ / 70〜120秒
  • 目標:柔らかい甘旨とクリアな余韻。
  • 長めの抽出で厚み、短めで透明感。

玉露

  • 50〜60℃ / 120〜180秒
  • 長めにおくほど、とろみと旨味が濃厚に。
  • 渋みを極力抑え、テアニン主体の世界観に。

番茶・ほうじ茶

  • 90〜100℃ / 30〜45秒
  • 香ばしさ優先。時間は短めが基本。
  • 長く置くと苦味が立ち、キレが鈍る。

抹茶(参考)

  • 点てる飲み物のため抽出時間の概念は薄い
  • ただし、点て終えてからすぐ飲むと香りが良い。時間経過で分離・劣化。

3. 目的別・時間コントロールの実践

狙う味わいに合わせ、秒単位で微調整します。
温度・茶葉量・湯量は一定に固定し、時間だけ動かすと違いが明確です。

3-1 旨味を引き上げたい(渋みは控えめ)

  • 短めに切る(例:煎茶 60秒)
  • 低温寄りで、湯量はやや少なめでも可
  • 余韻の甘さと透明感を優先

3-2 コクと厚みを出したい(飲みごたえ重視)

  • やや長めに伸ばす(例:煎茶 90秒)
  • 旨味に加えて程よいカテキンをのせる
  • 食事と合わせるなら、この方向性が合いやすい

3-3 すっきり・キレ重視(口直し・食後)

  • 短時間高温。ただし“置きすぎ”に注意(30〜45秒)
  • ほうじ茶・番茶向き。苦渋の輪郭で油分を洗う

3-4 二煎目・三煎目の時間設計

  • 二煎目は短く(例:20〜30秒)
    → 一煎目で水和済みのため、すぐ出る
  • 三煎目はやや長め(例:40〜60秒)
    → 抽出の残りを丁寧に集めるイメージ
  • 玉露は二煎目以降、温度を少し上げると旨味+香気の表情が変わって楽しい

4. 失敗しないための「時間管理」テク

タイマーは“手元で聞こえる”ものを

  • スマホのアラーム or キッチンタイマー推奨
  • 通知音・バイブで確実に切る。数秒の遅れが味を変える

蒸らし中は“触らない”

  • 急須をゆすりすぎると微粉が出て、渋みが急増
  • 抽出終盤に一回だけ軽く揺らすのは可(均一化のため)

最後の一滴まで注ぐ

  • カップへ等分し、**最後の一滴(ゴールデンドロップ)**を落とす
  • ここに旨味と香りが凝縮。味の輪郭が締まる

量のばらつきをなくす

  • 同じ茶葉量・湯量・器で測る
  • スプーンではなく**計量(g)**推奨。数gの差で時間設計が変わる

5. スマホでできる“記録”と“上達”のコツ

メモすべき最低3項目

  1. 抽出時間(秒)
  2. 温度(℃)
  3. 味の所感(旨味・渋味・香り・余韻を★評価)

テンプレ例(コピー用)

  • 茶種:____
  • 茶葉量:__g / 湯量:__ml
  • 温度:__℃ / 時間:__秒
  • 所感:旨味_/5 渋味_/5 香り_/5 余韻_/5
  • ひとこと:____

小さな“ABテスト”

  • 同条件で「±15秒」の比較を行う
  • “自分の好みの中心”が見つかると、別ロットでも迷いが減る

6. よくある疑問Q&A(時間編)

Q1:深蒸し煎茶は時間を短く?
A:はい。微粉が多いほど接触面積が大きく、短時間で十分出ます。
 70〜75℃で40〜60秒が目安。長く置くと渋みが出やすい。

Q2:冷茶(低温抽出)の時間は?
A:冷蔵庫で3〜6時間が目安。
 長時間でも渋みが出にくく、甘味が際立つ。氷水出しなら30〜60分

Q3:急須を回しかけると早く出る?
A:撹拌で成分は早く出ますが、微粉が多いと渋みが先行。
 基本は静置、最後に“軽く一回”で十分。

Q4:二煎目は短いのに味が濃いのはなぜ?
A:一煎目で茶葉が開き、拡散距離が短縮するため。
 成分が素早く溶出し、短時間でも密度が出ます。


まとめ

  • 抽出時間は味の重心を決めるレバー。
  • 序盤=旨味、後半=渋味の傾向を理解して調整する。
  • 茶種ごとの基準時間から始め、±15秒のABテストでベストを探す。
  • 二煎目は短く、三煎目はやや長く。
  • タイマー管理・静置・最後の一滴。小さな習慣が大きな差を生む。

時間を味方につければ、
あなたの日本茶は毎回、思い通りに近づきます。


参考文献

  • 日本茶業中央会『日本茶の事典』
  • 農林水産省「日本茶の淹れ方・品質評価」
  • 静岡県・京都府 茶業研究機関の抽出研究報告